「 マドリッドWindsorビルの火災」・・・・・ 和田 章・岡本達雄

 2005年2月12日(土)の深夜、スペインの首都マドリッドのWindsorビル(高さ106m)で大火災が発生した。日本では13日(日)のテレビニュースで炎に包まれたビルの様子が放映されたが、すぐに2001年9月11日のニューヨーク 世界貿易センター(WTC)ビルの崩落のことが頭をよぎった。WTCビルは航空機が衝突しても倒壊せず、直後の航空機燃料の爆発にも耐えたが、最終的にはオフィス内の家具什器書類などが燃え続けたため崩落したといわれている。Windsorビルは上層部に大きな被害を受けたが、長時間の火災を受けたにもかかわらず倒壊を免れることができた。両者の直接比較はできないものの、火災直後の状態が残っているあいだに是非見ておきたいと思い、竹中工務店設計本部の岡本達雄氏と一緒にマドリッドに行くことにした。2月24日(木)に現地を訪ね、ヨーロッパ竹中スペイン事務所の久保田稔氏、David Correa氏の全面的な助けによって、周辺から多くの写真を撮ることができ、新聞などから情報を収集することができた。

1. Windsorビル
 マドリッド市は大きな都市である。このビルはプラド美術館などのあるダウンタウンから真北に4km程の市街地に1979年に完成し、32階建て、延床面積61,749屐▲泪疋螢奪匹任錬姑嵬椶旅發気離フィスビルである。近くにはレアル・マドリッドの本拠地サンチャゴベルナブスタジアムがあり、ほかにも高層ビルや大きなデパートなどが立ち並び、地下鉄も通る賑やかな地区である。もし、WTCビルのように完全崩落したら、被害は周辺のビルや街に及んでいたに違いない。
 構造種別はコアーがRC造と周辺フレームがS造の混合構造である。外周サッシの方立ての裏側に眺望を阻害しないようにできるだけ見つけの小さい鉄骨柱が設けられ、その柱と鉄骨梁で外周ワンスパンのスラブの自重の外周部分を負担している。さらに17階にRC造のメガフレームが組まれ、その部分で17階から上部の鉄骨柱の軸力を支持している。16階以下の床自重を支持するために外周部に鉄骨柱が設けられその軸力は4階に設けられたRC造のメガフレームで受け止められている。

2. 火災発生原因と火災時の状況
 2005年2月12日午後11時20分ころ21階から出火した。ビルの13階以上はほぼ全焼し、13日午後ようやく鎮火した。出火原因は、上層部分での電気配線のショートの可能性があるという。このビルは2000年さらに2003年に改正された防火条例に適合させるために、防火設備の改修工事の最中であった。工事内容は、以下の4つに大別される。
(1) S造の柱の部分に最大3時間耐火の耐火パネルを設置する。これは下階から実施され4階から14階まで作業が終わっていた。
(2) 炎焼を避けるために電気ケーブルが配線されている壁の空間を密閉する。この作業も14階まで完了していた。
(3) ケーブルボックスの保護。これは終わっていなかった。
(4) 窓ガラスの防火対策。これも終わっていなかった。
改修前には柱梁とも耐火被覆がされておらず、スプリンクラーシステムもなかったことが確認されている。しかし、今回の改修によりスプリンクラーのメイン配管の設置は完了していたが、スプリンクラーヘッドを取り付ける途中であった。したがって、今回の火災に際してスプリンクラーは作動しなかった。

3. 今後の課題
  本建物は1979年竣工と古く、現行法規に照らして火災に対する防災性能が不足しているという理由で1年前から防災改修が行われていた。建物全体が倒壊せず、出火が深夜で無人であり人的被害もなかったことが不幸中の幸いである。
 現地視察の2月24日には既に建物の解体が開始されていた。外部に146mの揚程を有する2機の自走式クレーンが設置されて、躯体を小さいピースに切り取った上で吊り下ろすという方法が取られることになっている。火災後の姿をありのままに見ることができるのはこの日が最後であろう。
 超高層ビルは、その規模の大きさゆえに倒壊による周囲への影響が大きく、どのような状況でも全体倒壊は許されるものではない。ニューヨーク世界貿易センタービルの崩壊原因の解明は米国NISTによって行われつつあるが、このたびのビル火災、崩壊メカニズムとの比較検討も必要と思う。プレートテクトニクスの理論により、大地震はある期間をおいて必ず発生することは常識になっており、構造設計者はいつ起こるかは分からないとしつつも、地震はおこるものと考えて骨組や建築の設計を進めている。これに対し、火災については、原因が自然現象でないため、楽観的に考えると、設計している建物が将来に亘り火事を受けないと思い込むこともできる。しかし、地震後の火災は確実に起こると思わなければならない。
 ただし、耐震設計されている我が国の高層ビルと彼の地の高層ビルでは骨組の太さ等が異なること、耐火被覆、スプリンクラーなどの設備を持っていることもあるので、そのままこの現象を受け入れることなく、我が国の状況に応じた詳細な検討が必要と考える。

全 景
上層部の周辺の構造は鉄骨構造であり、火災の熱により崩れている。上層部の中央の架構は鉄筋コンクリート構造であり、火災を受けても残っている。長手方向の外側中央に見えているのは火災の前に増築されていた避難階段である。妻面の下層部に鉄筋コンクリート造の壁柱が2本と大きな梁(4階)が見える。この2本の壁柱は中間層まで続き、火災の熱で溶けた細かな鉄骨くずの下にもう1本の大きな鉄筋コンクリート造の梁(17階)が見える。縦長の鳥居形のメガフレームが鉄筋コンクリート造により構成されていたことになる。下層部の鉄骨柱は下部に見える大きな鉄筋コンクリート造梁に支持され、上層部の鉄骨柱は中間層のメガ梁に支えられている。

上 層 階
コアの鉄筋コンクリート骨組は火災のあとにも残ったが、周辺の鉄骨造はほとんど火災による熱によって溶け、崩れてしまった。上から3層目と4層目において、コアの鉄筋コンクリート造から周辺の鉄骨柱へ向かっていた鉄骨の梁とコンクリートスラブが90°折れて垂れ下がっているのが見える。

中間層のメガ梁
中間層のメガ梁が妻面に見える。上層部には鉄筋コンクリート骨組によるコアが見える。コアと妻面の間にはメガフレームがさらに2構面あることが梁形の一部がスラブから出ていることで分かる。メガフレームは中間層より上にはなく、コアは普通の鉄筋コンクリートラーメン構造である下層部の鉄骨柱は中間層のメガ梁の1つ下の階にはない。上層階の鉄骨柱は中間階のメガ梁によって支持され、上層部の荷重は壁柱に伝達され、下層部の鉄骨柱には上層部の鉛直軸力は伝達されていない。