次世代へ「しなやかな基礎でコストをスリム化」・・・・・若命善雄

 建物の基礎は地盤で直接支持する直接基礎とコンクリート杭や鋼管杭で支持する杭基礎とが建築基準法において大別されている。
 直接基礎は建物荷重に対して十分な地盤の支持力を有し有害な沈下が生じない場合に用いる。
杭基礎は、直接基礎では地盤の支持力が不足し、かつ有害な沈下が生じる場合に用い、支持地盤まで、杭先端を到達させて建物荷重を支える。
 杭基礎を選択するとほとんどの場合に地盤の構成によっては基礎工事がコストアップし不経済となる。  たとえば、東京湾に面する浦安のSホテル ( 7 階建) の基礎は、場所打ちコンクリート杭 (φ3.2 m L = 70 m ) を採用している。杭に使用したコンクリート量は上部建物の躯体用のコンクリート量より多いと言われている。当然、建物の機能は確保されているが、建物全体のバランスを考えるとどこか矛盾している。特に、 3 〜 4 階の低層建物の場合には、杭基礎で良いのかと疑問視されている。
 その解決策として 「 しなやかなパイルドラフト基礎 ( Piled Raft foundation ) 」 がクローズアップされている。
 たとえば、地表面近くは埋土と細砂で構成され、深さ 40 m 以上の軟弱地盤上に地上 3 階建の鉄骨造 ( 食品加工工場 ) を建設した事例では、現行の建築基準法をも用いると50m程度の杭基礎を用いることになる。これを直接基礎と深さ 2.5 m 程度のソイルセメント柱状体に H鋼を埋め込む ( 以下ソイルパイルという ) 工法に変更した。
 この工法は、建物荷重は地盤で支持し、地盤の沈下をソイルパイルで抑制するものである。当然、工事費は低く抑えられ、この場合には 50 % 程低減できた。
 この工法のポイントは詳細な地盤調査と有害な不同沈下 ( 建物の傾斜 ) を発生させないことを予測する高い精度の解析技術と施工中の観測システムの確立である。
 この工法を実際に使用する場合には、建築基準法に定められていないため、建築確認申請時には技術的な資料の提出が必要であったり、時として指定審査機関の評定を得る必要があったりするので、工事着工までに費用と時間を要する。そのため、一般の建築事務所ではなかなか採用されていないのが現状である。
 一方、戸建て住宅の基礎は、設計段階で個々に詳細な設計をせず、標準的な直接基礎 ( 30 KN / m2 , 50 KN / m2 ) で対応している。
 現状の建築基準法では、地盤調査に基づいて地盤の許容応力度 ( 支持力度 ) を算出し、基礎底面幅などを決めているが、沈下が生ずるかなどを検討している例が少ない。
 そのため、不同沈下による建物の不具合が発生し、その修復に多額な費用 ( 500 〜 700 万 )を要する場合がある。
 最近では、地盤調査 ( スウェーデン式サウンディング試験 ) 結果より沈下の有無を判定し、沈下が懸念される場合は補強対策を施しているケースが増えてきている。
 対策を必要とする住宅は、地域的な違いもあるが全体の 40 〜 50 % に達していると言われている。
 主な対策としては、セメント系固化材を用いる表層改良・柱状改良および細経鋼管 ( RES - P 工法 ) などにより地盤を補強して直接基礎とする方法と鋼管 ( φ 114 〜 φ 165 ) を用いる杭基礎がある。
 いずれの場合も、日本建築センターなどの技術審査をうけ、評価されているものが多い。 ( 旧 38 条認定 )
 ただし、杭基礎では、鋼管を打設してその上に直接基礎と同様な基礎スラブを用いているため、コストアップとなっている。この場合、建物荷重は杭で支持しているため、基礎スラブは不要、又杭頭に生じる曲げモーメントに対する鉄筋の配筋などを考慮すれば、杭本数を減らせる可能性がある。
 しかしながら、戸建て住宅の場合は規模が小さく平面が複雑なことから経済的に設計ができない事が多く、杭基礎でも直接基礎と同じような基礎スラブを用いているのが現状である。
 これまで、建築物の基礎設計は仕様規定型設計が主流をなしてきた。
 しかし、建築基準法の改正に伴い性能設計つまり、性能さえ確保できれば種々な基礎工法が採用できるようになったわけであり、戸建て住宅についても しなやかな基礎 が使用される環境作りが必要と考えている。