日本は地震や台風に見舞われる自然の厳しい国であるが、地形など変化に富み美しい自然と四季のある素晴らしい国でもある。この国の長い歴史と文化の中にあって、何百年も前に歌われた言葉が今の人の心にも響いてくる。春になると、在原業平の「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」を思い出す。満開の桜がいつまでも続けばと思っているときに、風が吹き雨が降って散り始めると、どうせ散ってしまうなら、はじめから桜など咲かなければよいのにと本当に思う。この歌の桜、つまり心惑わせるものとして女性の姿や、物質的・社会的な豊かさを誇る藤原氏の栄雅が見えてもおかしくはないといわれている。
夏の終わりになると、藤原敏行の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる」を必ず思い出す。今では、このような繊細な感覚は昔より鈍っているが、夏がまだ終わっていないときに、ふと涼しい風が一瞬だけ吹いて、あっ秋がきたのかと感じるときがある。この歌の秋を知らせる風には春の桜のようにもう一つの意味はあるだろうか。青春時代のひととき、夏のような恋に燃えているとき、ふとした彼女の冷たい言葉に、この恋も永遠ではないのか、秋のように寂しい季節がやってくるのかと感じることと通じるように思う。彼女の気を取り直してもらうには、優しい態度や行動が必要になる。
一般的に、集中化と省略化は効率を高める。長い年月にわたり人々が効率を求めて行動すると、日本全体も集中化、省略化、そして冗長性の低下の方向に進む。その結果、災害への抵抗力は年々低下していく。このたびの中越沖地震の被害は、戦後の六十数年を夏のように暑く経済優先で進んできた我々の活動に、自然が知らせる「風の音」のように感じる。地震災害を軽減するために、なにか優しい態度と行動が必要である。
島国の日本は南北に長く続き、背骨に高い山々のある複雑な地形の国である。ここに現在の建設技術を使って鉄道・道路・建物を作り、全国をネットワークで繋ぎ、人々が集まり、工業製品、エネルギーを効率よく作り続けて、世界に負けない豊かな社会を形成し、維持している。新潟のような複雑な地形にもかかわらず、効率を優先して欧米のように直線的な道路をトンネル・切り土・盛り土・橋梁の技術により作り続けているが、このたびの地震被害のように、このような自然を無視した新しい道路は多くの被害を受ける。一方、自然を理解し山裾に沿って作られた曲線の多い古い道路はあまり被害を受けていない。
このたびの地震では自動車の部品工場、原子力発電所の操業が止まった。一部の被害が日本全体に影響を与えることが問題になっている。さらに気になるのは、遠くない将来に大きな地震を受けるといわれる太平洋側の大きな都市の問題である。例えば、東京首都圏には三千万人以上の人が集まり、世界一の集中である。このような大都市への集中は長年問題にされているが、弱まる傾向はない。このような集中を許しつつ、大地震時に大きな塑性変形を許容し、地震後に取り壊しを前提にした建物をいつまでも作り続けることは問題である。大地震を受けて住めなくなり墓石のように立つ無数の高層住宅をあとに残して、民族大移動のような現象が起こるに違いない。
観点はかわるが、庶民の住む家々の耐震性不足が問題である。写真は濃尾地震を受けた木造住宅群の被害であるが、中越沖地震の被害写真とほとんど同じであり、百年以上が過ぎているのに何も改善されていない。
これらの「風の音」を肌で感じて、我々は次の行動を起こさなければならない。地方を活性化させ、大都市への集中を止め、効率だけではない冗長性のある社会を作らなければならない。これと同時に、免震構造・制振構造の技術開発をさらに進め普及することにより、大地震を受けても建物やインフラストラクチャの機能が維持できる社会を目指さなければならない。
「大規模地震の脅威に思う」
大規模地震に対しリスクを考える -どのように把握し、備えておくか - ・・・・ 安部重孝
１．はじめに
今年7月16日に起きた新潟県中越沖地震は、日曜日でもあり自宅でテレビのテロップで知った。200ｋｍ離れた東京にも1分半後に伝わりその長周期成分は東京の超高層建物を3分以上にわたって揺らしたようです。
建物の被害は古い木造建物が多く、木造戸建住宅の倒壊による死者10数名の多くは老齢者で、災害弱者救済が問題となっています。またも、木造戸建住宅の耐震性能向上が急務と位置づけられました。
また、震源に近い柏崎原子力発電所の被害により発電停止となりこの夏の電力供給の危機となりました。この原発の設計に関わったこともあり注目していますが、強固な地盤まで掘り下げられた基礎、通常の建物の3倍の地震力を考えた設計が設計地震動に対しても余裕度を持っていた、そのため設計地震動を上回った地震動記録に対しても、建物構造本体の安全性は確保されていたとのこと、余裕度の大切さを実感した。今後の実態解明、対応が期待されます。屋外の変圧器等の被害も報じられていますが、通常の建物においても構造体は耐震設計されても、外装、天井、設備などの非構造部材が被害を受けても建物は使えない、各部位まで考慮した性能設計が大事なことも実証されています。清掃工場の高さ約58ｍのＲＣ造煙突の中間破壊も注目しています。
そこで、「大規模地震の脅威に思う」のテーマに対し、大地震・対策・耐震偽装対策の基準法改正・リスクを考えると少し考えを述べてみます。
２．大地震を考える
大地震というと兵庫県南部地震が起きる前は、我々にとって伝説的な1923年関東地震（Ｍ7.9、死者14万人、全壊12.8万棟）、そして直接接した1964年新潟地震、1968年十勝沖地震、1978年宮城沖地震であった。
そして、1995年1月17日早朝の兵庫県南部地震はテレビに映された震災の情報に釘付けになり、2日後には現地でその惨状を目にしたことは生涯忘れることは出来ない。ここで、阪神震災直後に、私が担当しＪＳＣＡで行った4回の「阪神大震災パネルデイスカッション」の報告書（速記録･要約）を振り返ってみた。第1回3月31日「構造技術者からのメッセージ」はＪＳＣＡ会員からの報告が多かったが、会場から林昌二さんからのご意見「・・耐震性は法律などよりも構造設計者の手腕と災害に対する予測能力によって得られるものではないか。・・」難しいが示唆に富んだ意見であったように思う。第2回6月3日「容認できる被害の程度」では、ニッセイ基礎研究所の松村さんから「ビルのオーナーとテナントの立場から、基本的には人命を守るということだが、出来る限り早く復旧し、企業活動を継続することが非常に重要なポイント･･｣とし「・・客観的な情報公開が必要・・」と現状でもまだ懸案になっている事項である。当サーツの会員でもある矢野さんからは「・・建物の耐震性のレベル設定のメニューを作っておいてはどうか」との提案があり、その後ＪＳＣＡでは「耐震設計メニュー」を作成している。第3回8月31日「構造躯体にプライバシーはあるか」では日経新聞の井尻さんから「・・半ばパブリック、半ばプライベート。人間のライフサイクルを超えるもの、それが建物であり・・、建物の公共性がはっきりしてくる。・・」「・・当然躯体の強度まで含めて公共性が極めて高いので、公表すべきだ」、「・・危機管理に甘い建築物がどんどん建っていく」と警告があった。第4回10月17日の「社会が求める建物の安全性とは」では、それまで3回のパネルデイスカッションを総括するとともに私からは「提言とアクションプログラム案」を提案しその後まとめている。
震災に備えるため、今後の大地震をどのように予測するかについても研究が進められ、確率論的ハザード評価あるいはシナリオに基づく全国的な地震動予測マップが作成され、東海地震、東南海地震・南海地震そして関東直下型地震がとりあげられている。理学分野の地震学者の役割と思われるが、地震の正体を出来るだけ把握していただき、その知見に基づき、工学の分野のわれわれの役割は構造物とその利用者に対し被災防止の対策と実施に協力することであろう。
３．対策―備えあっても憂いありか
1995年の阪神震災で、1981年の新耐震以前の建物の被害が多かったことから、新耐震以前の建物に対し耐震診断・改修を行うための耐震改修促進法が1995年11月に施行され、また、直ちに耐震改修推進全国ネットワーク委員会を立ち上げられ、その後も推進に努められておられる岡田先生のご努力には頭が下がる思いです。
その後も鳥取県西部地震、宮城県北部地震、新潟県中越地震、福岡県西方沖地震、そして7月16日の中越沖地震と震害が続き、そして関東直下地震が予測されている。
2005年に内閣の中央防災会議では「建築物の耐震化緊急対策方針」が決定され、耐震化率を現状の75％(平成15年)から9割(平成27年)とする目標とし、自助(所有者の意識の向上)、国及び地方公共団体の支援･補助の基本的方向を定め、2006年には改正耐震改修促進法が施行され、都道府県にはその実施計画を義務付けた。現在、厳しい地方財政の中、耐震に対する安全安心の重要性も認識されほぼ実施計画が提出された段階となっている。
ＪＳＣＡでは木造、非木造の建物の耐震診断・改修についてアンケート調査を行った結果では、木造戸建住宅については、自治体の支援・補助の効果が大きく、特に耐震性に問題があるが補強改修を行っていない理由については費用の問題が多い。非木造の建物については民間では企業の存続に関わる工場の耐震診断・改修が最も多く、事務所ビルが次に多く、公共では文部科学省が推進する学校が圧倒的に多い。耐震診断の対象となっている1981年以前に建設された建物の耐震診断結果では木造・非木造とも耐震性の基準値以下（非木造であればＩs値が0.6以下）の耐震性に問題があるものが過半数を占めているのが問題である。
４．耐震偽装対策としての建築基準法改正と安全安心
本年6月20日以降、耐震偽装対策としての建築基準法改正による確認申請業務が実施されました。国民に安全と安心をとの国の意志が示され、特別意図的な物件を含む、技術・倫理の軽視による耐震性の不足の阻止とはなりましたが、建築基準法は耐震性に関しても最低限であり、林昌二さんからのご意見「・・耐震性は法律などよりも構造設計者の手腕と災害に対する予測能力によって得られるものではないか。・・」が思い出されます。
昨日は、中越沖地震で被害を受けた柏崎原子力発電所についての報告があり、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会 の傍聴をしてきました。
建築物においても地震の予測は困難で、建築技術者は耐震メニューなどを通じて建築主と向き合い、地震被害をリスクとしてどのように把握し、備えておくかである。
大規模地震の脅威に思う・・・・ 加瀬善弥
2007年3月25日の能登半島地震、7月16日の新潟県中越沖地震で多くの木造住宅が倒壊した。倒壊した建物の多くが在来工法の古い木造住宅で、道路に面した部分では筋かいもなく大きな開口部を設けている、しかも重い瓦葺であるようだ。
同様の被害は阪神淡路大震災でも見られたことで、過去の地震の教訓が活かされていない。
南関東で私の住んでいる地区は地震観測強化地域であり、東海地震と南関東地域を震源とするいくつかの地震が予想されている。ウォ−キングしていて道路沿いの建物が目に入るが、｢この木造店舗の道路面はすべて開口部で筋交いがない、塀はブロック造で補強をしていない｣と、外観目視調査をしてしまう癖がある。
これらは大きな地震があれば、被害が出ることは確実だろうと恐ろしくなることがある。
耐震診断評価業務で学校の屋内運動場の診断結果では、鉄骨主材は完全溶け込み溶接で設計されているが実情は隅肉溶接の耐力しかない、エキスパンションの間隔が十分でないため隣接建物と衝突する恐れがある、ふところの大きい天井では対策がされておらず落下の恐れがある等、耐震性の低い建物がある。
これらの屋内運動場は震災後の非難施設として活用されるので、未診断のものは早急に耐震診断をすべきであろう。
また行政によっては、液状化が生じる可能性があるとの診断結果報告書に、この表現は避けたいとの要望がでることがある。液状化対策は大規模な工事になることは確かだが、土間コンクリートの床もあり、基礎関係に被害が生じていれば、余震でどうなるか不安にもなる。
大きな地震が発生するたびに、あれこれ地震の特性が発表される。
今回は1秒から2秒の振動周期の地震波が被害を大きくしたとか、液状化により地盤周期が延びたのではないかと言われている。
未知の活断層があり、地震の発生、その震動がどのようなものになるか等、十分解明されていない分野があるだけに、現在の耐震設計であれば被害が発生しないと思わず、被害を少なくするために過去の教訓を活かし、対策をしておくことが重要であろう。
アメリカでの落橋と同様の事故は、日本でも何も対策をしていなければ、起こる可能性はある。建物についても古い建物は耐震診断、補強を行い建物の維持保全を図ること、新築建物は耐久性があり、リニューアルが容易であるように配慮し、社会資本を充実していくことが必要であろう。
大規模地震の脅威に思う・・・・小鹿紀英
最近、頻繁に大規模地震が発生するようになり、日本列島全体が地震活動期に入ったといわれる。地震調査研究推進本部の発表を見ても、南関東のM7程度の地震の30年以内の発生確率は70%程度と高く、それ以外の地域でも南海地震50%、東南海60〜70%と一定周期で発生するプレート境界型地震はいつ起きてもおかしくない状況にある。一方活断層の長期評価による地震発生確率はそれほど高くないが、兵庫県南部地震や福岡県西方沖地震、中越地震、中越沖地震など最近の地震は確率的には決して高くない地域で発生しており、確率だけで危険度を判断できないことを示している。発生確率の低い地域で地震が起こるたびに思い出す落語のネタがある。夜店で亀を買って帰るとあくる日に死んでしまった。夜店に亀は万年生きるはずなのに1日で死んだと文句を言いにいくと、おやじは平然として、あー残念だったね、ちょうど1万年目だったんだよ、とうそぶいたというもの。それはともかく、日本中どこでもいつでも地震の発生の可能性があることは間違いがない。
地震の脅威は日本全国同じで予測ができない以上その備えが大切となる。最近の地震被害の傾向として当然耐震性の低い建物や古い建物は大きな被害を受けてはいるが、一方において大加速度でも壊れない建物も多数あり、耐震設計法の高度化が被害の減少に大きく貢献していることは間違いのない事実のようである。むしろ、最近の地震で問題になっているのは、構造体にはそれほど損傷はないが、設備や二次部材が損傷を受けたために企業のBCP(事業継続計画)や居住者の継続使用に問題が生じたケースで、今回の中越沖地震でもそれが顕在化した。
BCPの観点では最近地震対策を時間軸上で事前、最中･直後、事後に分類し、それぞれに対して活用できるツールやシステムの研究開発が盛んに行われるようになってきたが、その中でも設備系、二次部材系の耐震対策の占める比重は以前にも増して高まっており、我々構造技術者も守備範囲が構造だから他は無関係とばかりも言っておられない状況になってきた。特に構造体に比べるとこれまで耐震性能の概念が希薄だったこれらの設備、二次部材系についての評価法や地震対策の整備が早急に望まれるところである。
ただそのような社会的要求に対しても、免震構造は構造体の損傷低減のみならず、設備系、二次部材系の損傷低減にも、いわば一石三鳥で極めて高い効果を発揮するので、今後益々適用が拡大していくことが予想され、安全・安心な社会の構築に向けて、制震構造をも含めた最新の対地震技術の普及拡大のための一層の研鑽が、我々構造技術者に課せられた重要な役割であると思う。
大規模地震の脅威に思う・・・・津田勝弘
我々が住んでいる「宇宙船地球号」は誕生してから約64億年が経過したと云われている。今尚地球の中心部は何万度と云うマグマが活動を続けており、地球の外側を覆っている殻を押し広げ一つのプレートが他のプレートの下に潜り込んで、その力に耐えられなくなった時にプレートが反発して地震が起こる事はご承知の通りです。従って、地震学者や地学の専門家が仰っているように、エネルギーが蓄積後反発し、また蓄積されるまでの周期に従って、今迄も又これからも大きな地殻変動所謂地震が繰り返す事は避けられません。近年では、終戦前後（当時は軍事情報の機密事項として名古屋地方で起こった戦時中の大地震は全国的にはあまり知られていない）から戦後の福井地震が大きな地震としては知られている。それから約50年たった平成七年にはご承知の様に、余り地震が起こらないと信じられていた関西地方で阪神淡路大震災所謂兵庫県南部地震が起こった。関東地方でもちょうど十年ぐらい前から千葉県の東方沖で地震が頻発、熱海地方や伊豆諸島での群発地震もまだ記憶に新しい。地震の活動期に入ったとも云われている。
最近新潟地方を中心に裏日本でかなり大きな規模の地震が多発している。これらは活断層地震が多いが矢張り、蓄積されたエネルギーが関係していると思われる。我国は地震大国であるが残念ながら、地震と上手く付き合っていく以外に方法は無い。地震の被害を少しでも少なくするには住宅を中心とした建物の耐震性を高める必要がある。小生が代表理事をしている地震防災建物安全協同組合でも民間の建物、特に木造の建物の耐震診断を中心に行った時期がある。国土交通省が発行している個人でもできる簡易診断もある。筋交いや耐震壁（壁量）がバランス良く配置されているか等とパンフレットにも書かれていて、それはそれで大切な事である。個人的な意見を言わせてもらえれば、又今までの住宅調査の経験からいって、確かに耐震壁や筋交いも重要であるが、日本の木造家屋で最大の欠点は矢張り、鬼門等といわれる平面計画にもある。特に住宅が狭い事情もあって水廻りが日当たりの悪い北側に集中している。台所と風呂、トイレ等の柱と土台を繋ぐ部分は柱も土台も腐っている部分（ボロボロになってしまっていて補強が不可能）が多く見られた。白アリの被害もある。古い建物では基礎は無筋の場合が非常に多い。簡易診断だけで判断するのは危険である。被害を少なくする特効薬は無いが矢張り予防保全が最善である。被害を少なくする特効薬は無いが矢張り予防保全が最善と考える。地震被害を受けて避難所に避難して、仮設住宅で過ごすのは費用対効果も勿論であるが精神的苦痛も計り知れない。小生が希望するのは、是非耐震診断や補強工事に対して助成金を大幅に増やし、掛かる費用に対して、税の減免を併せて実施して一刻も早く、住宅の耐震調査及び耐震補強工事を推進して戴きたいと考えている。私有財産に対して加護に支援するのは如何かとの反対意見も耳にするが、いざ事が起きて避難の支援や仮設住宅の建設等に当てられる費用は税金である。
原子力施設は全て免震化を！！・・・・菅野 忠
この地震にはびっくりした。まさか柏崎・刈羽原子力発電施設を直撃するような地震が起こるとは思っても見なかった。しかも、同原発で想定していた限界地震の２倍以上の地震力が作用したことが報告された。この地震の直後に国は、電力会社に海底の活断層の調査が甘かったとの評価を伝えている。実際に地震が起こってしまったのだから、国としては立場上そう云わざるをえなかったようだ。しかし、もし今回動いた断層が新しく出来たものであったとしたら、この海底をいくら建設前に調査しても見つからなかったであろう。それほど地震というものは分からないものなのである、特に海底の活断層については。
原子力施設の耐震設計指針では、原子力発電所の近辺に活断層が無い場合には、マグニチュード6.5の直下型地震を想定して設計することになっており、柏崎・刈羽発電所もそれによっていた。この原子力施設の耐震設計指針は、近年の地震動の研究成果を踏まえると十分でないことが分かってきたので、数年前より全面的に見直が行われ強化され、新指針として昨年９月に制定された。この新指針に従い既存の原発を順次補強することを進めてきた矢先にこの地震が起こったのである。更に頭の痛い問題は、この新指針によって直下型地震を評価しても、柏崎・刈羽で実際に起こった地震動の方が部分的に大きいのである。新指針よりも大きい地震動を想定しなくてはならないとなると、建屋とか圧力容器などはまだ余裕があるので大丈夫ようであるが内部の機器・配管、燃料棒、プール等の安全性を担保することは非常に難しくなる。
それを解決するには、原子力施設全体を免震化するよりほかに道はなさそうである。最近の建物の耐震設計は免震・制震技術を取り入れて高度化しているのに、最先端の技術を結集した原子力施設にまだ導入されていないのは不思議な感じがする。
最近、設計について思うこと・・・・矢野克己
１ 地震の想定
地震発生予測はなかなか当たらないが、地盤のゆれ易さはほぼ当たる。確度の高い地盤種別を基に設計するのが自然でしょう。また、法令で規定された性能以外は、危険性に応じた地震動を想定するのが当然でしょう。
２ 被害想定
１）都市・まちによって被災状況に大差がある。それをふまえて設計するべきでしょう。特に東京は他と違いが多い。(主として火災被害が主であり、復旧が遅れると思われること)
２）直接被害額で考えるより、間接被害、とりわけ人的被害（死傷と生活）と、社会機能が或る期間は喪失することを重視することが大切と考えます。間接被害の特徴は、
� ”�旧に要する日数で大差が出る。
�� 「まち」によって大差が出る。火災、避難が問題な のは東京です。
�� 高層建築の上層階はゆれが大きくなることを重視してこなかったことを反省しています。家具の転倒・落下は典型的な被害例です。免震構造が普及してきたことは大進歩です。
３ 想定地震動の表現は何が適当か
分りやすいのは震度です。震度を加速度で表現することは誤解され易いように思います。
被害対象によって主な動きの評価軸は違います。速度（エネルギー）、変形角、振幅が適当なものが多いですから。
４ 設計者として
１）設計用入力を法令のみに頼るのは、設計者の責任回避です。法令を守るのは当然ですが、法の対象範囲は極めて限定的です。設計者の判断が必要だから資格制度があるのです。
２）分らない部分は安全側に設計する勇気を
� ヽ鈎�
�◆￣嫋�化しやすい地盤
�� 集積はリスクを高める
�ぁ―斗弖�築物の地震入力（少なくとも平均値以上とするのが当然で、重要建築に1.25倍の入力を用いているのは）疑問です。
機能保持を重視する際は、軽少な部材・部分でも安全性は同じにするべきです。そこで機能が停止しますから。（原子力発電所での火災はこの類です。）
反省の思いをこめて書きました。