- 建物のコンバージョンによる都市空間有効活用
- 「建物のコンバージョンによる都市空間有効活用技術研究会」による成果が「コンバージョンによる都市再生」という本にまとめられ、その出版を記念して、昨年10月29日、セミナーが開かれました。研究会には代表の松村先生をはじめ、当会会員が多数参加しておられます。関係の方々に、わかりやすく現状を書いて頂きました。
- コンバージョン、そして都市と郊外の行く末・・・・松村秀一
1. 2003年問題?
最近「2003年問題」という言葉をあちらこちらで目にもし、耳にもします。東京都心部で次々に大規模なオフィスビル建設工事が完成し、大量のオフィス床が新規に供給されることに伴い、既存オフィスビルの空室率がこれまでになく上昇するという問題です。オフィスから住宅への建物の転用、即ちコンバージョンは、この問題を解決する有力な手段として各方面から注目されています。私たちの研究グループ「建物のコンバージョンによる都市空間有効活用技術研究会」が幾分かは火付け役になった感もありますが、ここにきて各種の民間企業ばかりではなく、国土交通省も複数の検討の場を立ち上げていますし、東京都も部局横断型の委員会を設置したようです。
しかし、私自身は、コンバージョンが2003年問題への対応という観点からのみ語られがちであることについて、「ちょっとどうかな」と思っています。コンバージョンを単にビルオーナーのための空室解消手段と捉えたのでは、面白くありません。ストック型社会の都市経営・建物運営のあり方と関連付けて長期的な視点で捉える必要がありますし、人口減少社会での都市像、都市でのライフスタイルを念頭に置いた議論を下敷きにすることも重要です。そうすることで初めてコンバージョンは多くの人が知恵を出し合うに足る課題に位置付けられるものと思っています。
- 2. 都市経営・都市像の問題としてコンバージョン
オフィスビルが住宅にコンバートされているのを、私自身初めて目の当たりにしたのは1998年マンハッタンでのことです。ワークスタイルが変化し、多くの企業がその本社立地を歴史のあるウオール街周辺からもっと新しくトレンディな場所に移して行ったことがその背景にありました。空室率が上昇し、税収が落ち込む一方、人通りがまばらになった場所では犯罪発生率も増加してしまいました。都市経営上収入が落ち、支出が増えるという悪循環に入りつつあったのです。しかし、業務地として発展したこの地区を住宅地として見ると利便性も高く魅力的な場所でした。そこで、ニューヨーク市がとったのがゾーンを決めてオフィスから住宅へのコンバージョンを税制優遇するという思い切った方法だったのです。2000年までに50ものビルのコンバージョン・プロジェクトが立ち上がり、生活者の転入に伴い町は徐々に活性化していったとのことでした。
同じ様な都市経営上の戦略に基づくコンバージョンの促進は、他の大都市でも見られます。例えば、シドニー市は自分達の戦略について次のように説明しています。
「都市は人々のためのものだ。中心市街地の産業の活性化は様々な用途の複合なくしてはあり得ない。そうした意味で、シドニーの中心部には居住者が少なく、もっと多くの永住者が必要だ。そうすれば、多様な地域内活動が必要になり、その多様な活動によって、シドニー中心部はそこで働く人々にも訪問客や観光客にも魅力的な場所になるだろう。また、中心部に住む人々が増えれば、利便性の高いインフラストラクチャを用いることで、交通量も減らすことができ、ひいてはよりサステナブルな都市への変化が可能になるだろう。更には、そこに住む人々のそれぞれが、自分の町としてのシドニー中心地区の福利により大きな関心を示し、その結果としてコミュニティ意識が広がりを見せるだろう。」
まさしく業務都市から居住都市への脱皮戦略、或いは機能主義的近代都市像から職住近接のコンパクトな都市像へのパラダイムシフトを象徴する宣言です。当時25%近いオフィスビルの空室率に頭を悩ませていた同市ですが、「空室対策」とか「○○年問題」といった言葉が踊っていない点に注目する必要があると思います。
- 3. いよいよ郊外に視線を
さて、実はコンバージョンに関する研究を推し進めてきて、私自身が改めて事の重大さを認識せずにいられなくなったのが郊外の行く末です。
オフィスから住宅へのコンバージョンは都市の中心部で行われ、人々の都心居住、更には職住近接の居住都市への転換を多かれ少なかれ促進することになるでしょう。しかし、生活者はどこからそこに移り住んでくるのでしょうか。多くの場合郊外住宅地ではないかと考えます。人口増加・経済成長下ならいざ知らず、これからの時代を考えると、コンバージョンは、高い空室率を都心のオフィス街から郊外の住宅地に移す行為に他ならなくなる筈です。空室が増え、都心に移り住むことのできない人々だけが残されるというのは最悪なシナリオの一つですが、とても非現実的な想像とは言えないでしょう。
「団地再生」などという本を出しておきながらお粗末な話ですが、この問題に関して私自身何等かの見通しを得るには至っていません。郊外に、都市の付属物としてではなく、都市にはない場としての魅力を持たせる戦略が必要だという程度のことしか言えない現状ですが、コンバージョン研究が一段落したらいよいよ郊外の行く末に視線を集中させるべきだと思っています。
競争・自由化時代の設備とコンバージョン・・・・安孫子義彦
設備の分野では静かな変化がおきている。建物に付属するものとして長く位置付けられてきた設備ではあるが、建物の寿命が長くなるにつれて(スクラップ&ビルドができなくなったという意味で)、設備が独自の哲学とビジネス感覚でストックの有効活用に対応することが求められている。SI住宅やコンバージョンなどはまさにもその「走り」ともいえる。
一方では周知の通り、電気やガスなどのエネルギー自由化の波が急激にすすみ、エネルギー会社間の競争の時代に入ってきた。さらに追い討ちをかけられるように、最近では水道事業、ごみ収集事業などの民営化も始まっている。建物へのエネルギーや水の供給処理の形態も、公共・公益事業から、民間事業に変化してくるのも間近なことと思える。これは設備業界に具体的な変化をもたらしてくる。すなわち、水道は水道やさん、ガスはガスやさん、電気は電気やさんといった業種区分の図式が大きく崩れ始めていることである。電気がガスを扱い、ガスが電気を扱う。給湯や暖房も両者が競い合う時代になった。給水、排水、ごみなどもそのうち新たな民間コミュニティビジネスとしてこれに取り込まれてくるのも、あながち非現実的な話ではない。
コンバージョンの設備を考えると、給水、排水、給湯、暖房、冷房、情報、ごみともに、今までの集合住宅で普及して使われていたシステムや機器をそのまま転用するわけにはいかにところがある。例えば、まず空調屋外機や給湯器などの置き場所がないことだ。また排水などのための床下の配管スペースや、厨房や浴室などの換気ダクトのためのスペースなどがない、さらに厨芥などのごみ置き場を玄関口に設置することは非常に難しい。何とか納まったとしても、居住者相互のスペース共同利用に関するルールや事故発生時の責任のとり方などについて、オーナーと居住者の相互理解と相互責任が普通にもまして重要になってくると思われる。
そうは言っても、オーナーや居住者にその能力があるとはとても思えない。そのためコンバージョンビルの設計・施工・維持管理はてはリースや料金徴収の代行などにいたるまで一手に引き受けることができる、競争原則に則ったニュービジネス会社の台頭が期待されるのである。ガスが動くか、電気が出るか、あるいは第三の資本が生まれるか大いに興味あるところである。
- 日本型コンバージョ・・・・ 大野隆司
松村秀一代表のもと「建物のコンバージョンによる都市空間有効活用技術の研究開発」のお手伝いをしています。1年目の昨年は「都市ビル実態把握分科会」(主査:深尾精一)に属して、どんな空きビル(コンバージョンの候補)があるか?どんなコンバージョンが可能か?などの議論に参加しました。
そうしたことから今年度は、卒業論文で都心8区について実際の空きビルでプランのわかるもの50件を調べて貰いました。その概要は表1.の通りです。代表例いくつかについてはコンバージョン後のプランも考えて貰いましたが、難しいものもあるようです。
事務所と共同住宅、プランを考えるうえで影響の大きい法規上の差異は、採光と二方向避難です。いずれも接道長さの影響が大きく、我が国の場合、空きビルの多くは中小ビルで、一部減築して中庭などを設け採光対策とするという手法は使えませんから、間口の割に奥行きのあるもの、接道側にエレベータ・階段など竪動線のあるもの(事務所のプランとしては一般的)、規模が大きい割に一面接道のもの(今回は少なかった)、などは概ねプランニングが難しいようです。大雑把に接道長さ1m当たり住宅面積15�岼焚爾�限界と考え至りました(共同住宅設計で奥行き15m以下は常識だそうです)。
2年目の今年は「産業化検討分科会」(主査:安藤正雄)に属しています。自らがコンバートされたわけです。ここでは、どんなビルはどんなコンバージョンが可能か?具体的な事業モデルがテーマで、サポートWGをお世話しています。
このところ見学する機会の多い免震はコンバージョンにとってなかなか有力な解決法だと思っています。特に中間階免震は魅力的ですが、コンバージョンの場合、免震階で片持ち状になる柱がどうも気になってしまいます。
分科会テーマの一つとしてコンバージョンか建替かの判断マニュアルが求められていますが、長持ちするか否かはビルの性能だけでは決まりません。ある程度のものは廃棄・建替にも保存・再生にも、どうにでもなるように思います。結局は長持ちさせる、という強い意志が有るか無いかが最も重要、と考えています。
昨春、見たシカゴのコンバージョン・ビルの意匠・空間の豊かさは相当なものでしたが、我々が対象とするビルの主力は中小ビルで階高もそこそこです。現在、マンションを事務所化として使っている輩は格好のターゲットですが、面積の広いものやラグジュアリー仕様のものなどは、日本型の範疇にないと考えるのは短慮にすぎるでしょうか?
表1.都心8区の空きビルの概況
- 持続的な市街地更新に向けて・・・・鎌田一夫
空き室の目立つようなオフィスビルを住宅に改造し用途転換するコンバージョンは、都心の市街地を持続的に更新するために魅力的で可能性を持った手法である。
個々のコンバージョン事業が成立するためには、改造工事費を賄う家賃収入増が必要となる。オフィスより住宅の方が賃料が高いことが条件になる訳だが、一般的にオフィスに比べ住宅の専用床ネット率は低いことを考えると、改造費を賄うだけのレントギャップのある地域は限られる。もっとも、賃料比較どころかオフィスビルとしての存続が無理なケースもあり、そこでは建替えとコンバージョンの比較になる。ある試算では坪当たり改造費が30万円以下ならばコンバージョンが有利という。これなら何とかなりそうだが、耐震改修が必要な場合は改造費が一気に膨らむ。一方、新耐震設計以降の新しいビルでは、建設時の借入金が残っていることが多い。
あれこれ考えるとなかなか難しそうだが、事業として成立させるには何といっても改造費を抑えることがポイントだろう。単なる安普請では困るが、都心周辺という立地条件を考えると、改造費を抑えたデザインが魅力ある住宅と評価される可能性は十分にある。さらに、事業収支の改善につながる公的なしくみも必要だろう。規制緩和、税制優遇、建設費補助などが考えられるが、コンバージョンを一律に優遇するのではなく、優良建築物整備事業のように物件ごとに基礎自治体が採択するしくみがよい。公的にも住宅転用を促進すべきと認められてはじめて成立つ事業こそ、本来の市街地の更新につながる。
ところが、公的なサポートなどは受けない代わり、建築確認申請をしないコンバージョンも考えられ、既に実例ありとも聞く。著しい脱法がない限り、こうしたコンバージョンも並立することが市街地更新の持続につながるのかもしれない。
- 地方都市にも導入可能なコンバージョン・・・・小畑清治
コンバージョン事業の難しさ
コンバージョンの海外事例や考え方は理解できても、日本で現実に事業化ができるのか疑問の向きもある。不動産・建設関係業界の意識は極めて保守的であり、取引の不透明性も甚だしい現状にある。また古い建物に投資や融資をしようかという金融機関が見当たらない状況である。しかし不良債権化したビルが、信じられないほど安く取引されているのも事実である。
このような状況を、好機と捉えて挑戦している事例が、日本の地方都市にもあった。栃木県佐野市の中心部で倒産したデパートの建物をコンバージョンして、高齢者向けマンションにした事例である。この地区周辺も、ご他聞に漏れず、佐野駅や市役所に近い一等地でありながら空洞化が進んでいる。そこに、理想の高齢者向けマンションを提供し、同時に中心市街地活性化を図ろうと考えていた人がいた。
地方都市の先進事例
ここで高齢者向け賃貸マンション『悠楓園』を経営されている松永安優美さんは、格安で売り出された倒産デパートにめぐり合い、これを活用すれば『理想の高齢者住宅』が実現できると考えた。
即ち、�’�齢制限がなく家族と同居が可能なこと、��介護が必要になっても住み続けられること、�3甲罎卜�地し気楽に買い物や外食が楽しめること、�げ板舵蘆瓦覆匹�十分低廉であること、等々で、ナースステーションや、大浴場(各戸にもバスルーム有り)、共同食事室や食事サービス(共同食堂・自住戸選択可)に加えて、医療クリニック、給食会社なども誘致しテナント入居させている。
敷地2000�峩�、延床8000�峩�、地上4階地下1階建てで、昭和59年竣工の建物(敷地付き)を1億数千万円で買い取り、坪20万円程度の改装費を掛けて造り上げた。
隣地との離隔がほとんどなく、デプスの極めて深い建物なので、隣地境界側の1スパンの外壁と床スラブを抜いてライトウエルにしたり、地下食品売り場跡を駐車場にするために斜路を新設(梁の切断・耐力壁新設)したり、エレベーターの1基増設(1基は既存活用)をしたりという、大胆で明快な改造を行い、見事に仕上がっている。