「108mの超高層住宅排水実験タワー」 ・・・・株式会社 ジェス 安孫子義彦


 以前は、集合住宅の排水方式は2管式で、排水管と通気立て管の2本がパイプシャフトに設置され、各階の排水管がこれに接続されていた。これは米国から入ってきた方式である。これに対して1本の排水管に特殊排水継手を設けた単管式排水方式がある。これは特殊排水継手で排水と空気を継手内で分離交換しながら流すため、通気立て管がいらない排水方式であり、8階建て程度のヨーロッパの集合住宅で多用されていた。
 何度かのマンションブームに乗って、スペースが小さくてすむ単管式が、いまではわが国のマンション排水の主流になっている。メーカー各社は特殊排水継手の性能試験のために、自社に30m程度(10階程度)の排水実験タワーを建て、特殊排水継手の排水性能開発を競い合った。マンションも超高層の時代に入ってきた。各社の実験タワーで測定し予想できるのは、せいぜい15〜20階程度で、これを超す超高層マンションでは排水がどのように流れるのか、未知の領域として残されていた。
 時もとき東京で都市博覧会の話がもち上がった頃である。超高層住宅用の排水を解明するロケット発射台のような実験施設ができないだろうかと思い、国の重要技術開発補助金申請をねらって描いたイメージスケッチが、UR都市機構の担当者の目にとまり「都市博の出し物に面白い」との一言から実験タワー建設の計画が動き出した。
 筆者らも喜々として建設計画に没頭した。排水実験だけではもったいない。材料の劣化や、落下物試験、高所の心理分析、超高層換気、風による揺れの影響など、多面的な実験ができるような計画が練り上がった。構造の経済性から形は8角形となったため、排水実験スペースが非常に狭くなった。工期も非常に短く、実験用配管は配管ユニットをつくり鉄骨の建て方と同時に対応した。
 この実験タワーはUR都市機構の八王子都市住宅技術研究所に現存する。高さは108m、航空進入路の高さ制限がある中で、36階100mを超すことにこだわった。完成後、ここで行われた排水のさまざまな実験結果から、現在建設さている60階近い超高層住宅でも、単管式排水方式が採用される技術的根拠が生まれた。
 排水の理論化で四苦八苦していた技術者の悩みが、108m煩悩タワーに救われたという軽口も聞かれた。いま中国上海では、この実験タワーに関与した中国人の女性留学生が中心となってこの種の上海排水実験タワーを建設中と聞く。

地上36階、高さ108m、一辺約5mの八角形.12mごと(4階相当)に実験床がある。
隣接して中層用の30m排水実験タワーが見える。