自著に寄せて・・・・米田雅子

■ 建設帰農のすすめ/ 著:米田雅子
 日本の経済は回復してきたといわれるが、地方にいけば、景気はさらに厳しさを増している。この背景には農業と建設業の衰退がある。国と地方の財政赤字が巨額にのぼり、人口減少と高齢化が進むなか、これまでのような公共依存の強い地方経済は限界にきている。地方を再生するためには、自立した産業を育てること、特に農林水産業を復活させることが重要だ。
 ここに明るい兆しが見えてきた。それが建設帰農である。「建設帰農」は、戦後、農業から建設業に入ってきた人々が、社会の変化とともに農業に戻り、新しい農業に挑戦するという意味である。仕事が減少してきた建設会社が、高齢化が進み担い手不足の農業に、地元の企業として参入し始めた。
 ここで大切なのは「新しい農業」である。農業というと「儲からない」と言われるが、方法を変えれば成長産業に変身する可能性がある。農家単位では難しかった農業の革新を、企業であれば、さらに土木建設で培ったノウハウを使えば実現できる。
 たとえば、分散農地の耕作へ工程計画手法の導入、農業土木を生かした土づくり、日本の農業が誇る農家の名人の技を企業という器で広める、耕作放棄地を重機で開墾する、加工・販売までのアグリビジネス、観光とのタイアップなどである。将来は日本の食文化とともに海外に農産物を輸出できるだろう。
 このように農業には様々な可能性があるが、実際に農業に参入した建設会社は、現在とても苦労している。さまざまな障壁に加えて、本業が半減するなかでの挑戦はいばらの道でもある。
 今、日本の農業は危機的な状況にある。食料自給率は4割、農業者の過半数が65歳以上、外国からは貿易の自由化を迫られている。しかし、環境の保全、食料防衛、地球全体の食料問題のいずれからみても、農業を衰退させるわけにはいかない。苦労をしても新しい農業を切り開く必要がある。現在、農政改革が進みつつあり、特区で認められた「市町村を介した企業への農地貸付」が全国に展開される予定である。さらなる早急な規制緩和が望まれる。建設帰農は、日本の国としても重要な取り組みである。
■出版社/ 中央公論社
■ A5版245頁=1,890円(税込)