「自著によせて」・・・・ 矢野克巳


■ マンションは地震に弱い /著者:矢野克巳 監修:NPO法人耐震総合安全機構「耐震総合安全性指針作成委員会」

■ 出版社/日経BP社

■ A5版 200 頁= 1,890円(税込)

 阪神大震災の際に聞こえてきた事件が私の耐震姿勢を転換させるきっかけでした。某工場の建物被害は軽微でした。その報告が設計事務所に流れました。しかし、工場の命である機械が大破して一時操業停止となりました。被害は極めて甚大でした。これは、地震被害が甚大な工場と言うべきです。

 建築は機能を満たすための「しつらい」です。責任のありかを追及するのでなく、情報開示が不足していたのではないかと反省しました。  このことは、通常の建物でも沢山見られました。建築設計者は高層建築の上層階はゆれが何倍かに増幅されていることは承知しています。しかし、このことを充分に伝えてないのが現状です。

 そこで、建築耐震設計者連合を組織して研究会を始めました。建築家、設備設計者、各種業者等々の集まりです。調べれば調べるほど、夫々の分野がそれぞれに地震を想定していることが分かりました。構造は建築学会の非構造部材の耐震設計の基準のように、「耐震設計に際して除外されている部材または部位」が非構造部材であって、いわゆる雑壁等は構造の対象外です。マンションの玄関扉が開かなくても、ましてや家具の散乱で重傷者が出ても、構造設計は適切であると判断するのです。どこかおかしいのです。非構造部材は、耐震とはどの程度の震度に対して安全といっているのかは分かりません。建築界は各部の損傷を防ぐのが目標で、機能保持は対象外です。どれくらいの地震で使えないのか分からずに建てています。高層マンションでは最新のものでも震度4で機能が停止します。後は、修復がどれくらい早いかが問題です。大地震では早い修復は期待できません。消防署でさえ、平常の50倍の出火で対応しきれないとなっています。

 私たち建築関係者は、その実態を伝えると共に、対策を提案してこそ耐震診断だと思います。法令のみに頼るのでなく、医者のような診断をすべきだと思います。著書の動機です。