■ 建築家のための土質と基礎「ザ・ソイル」
■ 著者/藤井 衛・若命善雄(正会員)・真島正人
■ 出版者/株式会社建築技術          
■ A5版・157頁=2,400円+税

著者らは、基礎構造のコンサルを通じて、土質と基礎構造に無理解な相手に手を焼いたにちがいない。そもそもどんな分野にあっても、専門家として共通言語となるキーワードがあるわけだが、建築工学にあって基礎や土質の分野となるとベーシックなはずのキーワードが理解されなかったり、誤って理解される場面が多い。著者らは、図解しながら一から始めるレクチュアに近い局面も少なくなかったのだろう。そうした中で「せめてこの範囲は認知してほしい!」という思いがこの書物の誕生するきっかけだったろう。
建築基礎構造で先ず思い当たるのは、日本建築学会「建築基礎構造設計指針」だが、これは設計規準でなく設計指針で、記述が確定的ではなく、諸説の羅列的記述部分が多く、初学者にとって取り付き難い。そこで、「ザ・ソイル」と「建築基礎構造設計指針」を一緒に学習するとしたらどうか?まず「ザ・ソイル」の多くの写真と図版が実際の土と基礎の現場をイメージする大きな助けとなる。前者は後者のオリエンテーションの役割を果たすのだ。著者等のコンサルティングを通じてのエッセンスともいうべき部分が図版に極めてシンプルに表現されいるからだ。従前の版下、トレースによる作図ではなく、パソコンの作図ツールによっているが、これがGL下の状況のプレーンな表現にぴったり適合している。1項目の説明を1〜2頁というスタイルも一寸した空き時間に目を通す気にさせる。もっとも2頁では意を尽くせない項目ではちゃんと必要な頁が割いてあり、例えば「液状化」の項は延べ9頁が当てられている。
一方、「水平力による杭の応力と変位」という項目は、イントロとなる準備項目も入れて3頁だけ割かれているが、ここはもともと理解を求めるには無理な項目と承知の上で絞り込まれたようだ。定性的記述とともに、Changの名を出さずにその理論解が示されている。このようなガイドブックにとっては、表現に悩ましい項目だったろうが、ここは設計指針に任せるほかないところだ。地下室による受動土圧抵抗による杭への入力の低減などの有効な措置が示されており、設計者にとってのポイントは十分に示されている。(今津賀昭)