■「現代建築の造られ方」
■ 著/内田祥哉
■ 出版社/市ヶ谷出版社
■ B5変形判 134頁 = 2,500円+税

 いい企画の本が出版された。前書きにある出版社の趣旨書によると、建築を学ぶ学生、外国からの留学生を対象としている由である。いろいろの対訳本があるが、建築の分野では初めてのものではないかと思う。
 偶々、私の書棚に同著者の「オープンシステム」(1980年刊)と、退官公開講義録「建築の生産とシステム」(1993年刊)がある。この本はこれらの著作に著された著者の長年にわたる研究の上澄み液のようなもので、言わば、建築生産に関する徒然草のような趣がある。ページ毎に大きなテーマが簡潔、明快な文章で説かれていて、容易に腑に落ちる気がする。しかし、「専門的知識がなくても読めるように」との配慮ながら、内容を充分に納得するには広範な基礎知識と経験を必要とするかもしれない。1ページ1項目と言う形式に凝縮されすぎた所為だろう。建築学生には前掲の著作のほうを読んで貰いたいと思う。
 英文の方は、簡潔に説かれた原文の英訳に訳者の苦心がうかがわれた。その英訳文を批評するほどの英語力が私にはないが、所々、置き換えられた単語、構文の違いから、少し内容が違うのではと思われる部分もあるようだ。
 そこで、留学生の立場で、英文を先に読んでみると、これがなかなか難しい。原文を対照して漸く分かるという部分もあり、日本語の不得手な留学生が英文だけで原文の持つ意味に確実にたどり着けるだろうかと心配した。
 日本語的表現や構文の違いから、英訳しにくい文があるのは避けられないが、訳出には一定の方針が必要だろう。意訳部分と直訳部分が混ざっていると意味がつながり難い様な事もある。また日本固有の技術用語、英訳できない専門用語等は、出来るだけ多くの注釈で補う必要がある。簡単な例をあげれば、「建具」をsliding panels と安易な英語化はどうか。因みに「畳」は tatami のままである。単にtearoom といわれても茶室がどんな形式の部屋であるか理解できないだろう。残念ながら、校正漏れ、誤訳もある。日本の現代建築生産技術のわかり易い解説として好著なのだから、敢えて、出版社の英訳改訂の努力を望みたい。(伊藤誠三)