■ 「建築物の耐風設計」
■編者/大熊武司、神田 順、田村幸雄
■出版社/鹿島出版会
■B5版・261頁=4,800円+税

 耐風設計の基本となる建築物と風に纏わる現象は、必ずしも良く知られていない。そのため設計において規基準類でカバーされている範囲を超えた場合、専門家でもどうして良いか分からなくなってしまうことがある。そんなところが実情ではないか。耐風設計では、風洞実験や、流体計算といった手段が有力な武器になる。それらの利用方法についても、一般の構造設計者には、なじみの薄い世界である。
 本書は1996年に編著されたものである。建築基準法施行令および関連告示による耐風基準は2000年に改正されている。しかし、本書の内容は、技術的に見た場合、新耐風基準を先取りしたものとなっており、改正前に書かれたものであるという点を割り引いたとしても、極めて有用な本であると言える。
 実はページを開く前、難解な本ではないかといった危惧があった。しかし、ページを捲っていくうちにその先入観を訂正しなくては成らない事に気づく。基本的な事柄をしっかりと教えてくれるし、忍耐強い記述で、難しい内容も読者に十分理解させてくれる。
 第1〜2章は、耐風設計の変遷や強風の特性などが紹介されている。強風の特性把握するために必要なスペクトル解析等の手法は、ここで学習することができる。第3章は、本書のメインとなる章であろう。風の流れが建築物に作用する風圧となる関係などが学べる。設計の基本的なパラメータの速度圧や風圧係数などもこの章で扱われている。変動風圧力の評価法、風と建築構造物との相互作用による付加的な空気力の問題など、やや高度な内容は、この章の後半で学ぶことになる。第4章では高層建築物等で重要となる振動等の評価が扱いを学ぶ。事例紹介もあり、理解の助けになる。第5章はまとめの章である。学んだ事柄を実際の設計・評価でどのように使うのかを確認する。第6章は、風洞実験や流体計算といった耐風設計での武器が紹介される。実施する際の注意点も記述されている。実験等の専門家も一読しておきたい内容である。 (岡田 恒)