最近読んだ本・・・・山東和朗

■あったかも知れない日本-幻の都市建築史/著者:橋爪紳也
 建築或いは土木の仕事は、人生と同じで、実現されるまでに多くの紆余曲折があり、中には実現に至らず、計画がそのまま凍結され、日の目を見ないものも数々存在する。
 しかし、そのような場合にあっても、それを計画し、設計するものにとっては実現のために最大限の努力を図り、種々の努力を重ねた結果である。
 著者はこのような実現されなかった幾つかの事業を通じて、その時代が土木或いは建築に分野に何を求めたのか、そしてその要請にどのような人が応じたのか、更にそれらがどのような時代感覚のもとに、実現されなかったかを通じて、我が国の近代化の中で、工学としての技術がどのように、造り出され、進化しようとしていたのかを語っている。
 事例としては、明治19年から20年に来日したベックマンとエンデの東京の官庁集中計画案から始まって、関東大震災以後の記念碑的な建築計画、さらには野球場計画、飛行場、或いは田園都市計画などの郊外住宅地の開発、戦前の万博或いはオリンピック計画又昭和14年に行われた「忠霊塔」の懸賞設計まで戦前行われた都市計画案、懸賞設計等が挙げられている。
 戦後の事例としては、昭和23年の「世界平和記念カトリック聖堂」コンペから、国会図書館、京都国立国際会館、更には昭和43年の最高裁判所、その2年後の日本万国博覧会まで、建築界のみならず多くの人々が強い関心を抱いたケースを挙げている。
 実際に建設されたものには、やはり多くの人々が関心を持ち、その成果は多くの人々の記憶に止まっているが、そこに至るまでの多くの技術者の努力については記録としては存在してはいても、改めてそれらが評価されることはまず無かった。
 このような観点からすれば、一つの歴史としてこれらを再評価する手立てはもっと在ってもいいように思うし、その後建築家なり、土木技術者として大成された方々が、これらの計画或いはコンペを通じて、世の中に認められて居ることにも注目してもいいのではないかと思う。
 昭和の40年代以降については、平成も含めて、さらにこのような事例が紹介されても良いのでは無いかと著者に期待したい。
■ 出版社/ 紀伊国屋書店
■ 変形 版 254 頁= 2,310円(税込)