■ 「日本の木造住宅100年」
■監修/坂本 功
■出版社/社団法人 日本木造住宅産業協会
■B5版・312頁=非売品

 本書は今まで学術書に余り取り上げられることのなかった、一般木造住宅変遷の100年を、現存する様々な資料から編集執筆されたものである。
 災害の三大要素の地震台風火災と木造住宅について過去の災害の状況を詳述し、それに伴う建築法規の変遷から木構造の変化、そして新しい木質構造の勃興のエピソードが語られ、新木造軸組構法への発展、それを助けた新材料の導入、さらに木造の各部構造の変化、そしてスタイル・平面等の変遷が記述されている。
 特に興味深いのは、床下換気孔の変遷や、台所・家庭用風呂・便所等の庶民の生活に関わりのある住まい方から職人世界の変遷についてまで網羅されているので、子供の頃からの自分の育った環境を改めて思い起こされるのである。
 また、木造住宅の火災について、大火災の悲惨な印象が強いが「江戸時代、借家・貸布団の庶民にとって、わが身さえ守れれば火事は損失でも何でもない」といった文献の引用はなるほどと肯かされるものがあった。「火事と喧嘩は江戸の華」という諺は有名だが、子供の頃火事があると下町育ちの私などは家の若い衆と一緒に屋根の上に登って、わくわくしながら見物した思い出があり、不謹慎だが興奮させられる出来事でもあった。
 本書は全体の構成と内容が技術論のみでなく、生活文化史にまでなっているところが、執筆された内田研の伝統を受け継ぐ坂本・松村両先生と研究室関係者の方々の面目躍如で一気に読ませられる内容になっている。
 また、「木質プレハブ・ツーバイフオー構法と軸組構法」では、杉山英男先生が語られている上記の構法の研究や制度の変遷の殆ど全てに、業界側のリーダーの一人として参加していた自分史の50年も思い起こされて感慨が深かった。     (阿部市郎)