■ 木造建築を見直す         
■ 著者/坂本 功(正会員)
■ 出版者/岩波書店           
■ 新書新赤版・213頁=660円+税

 本書の冒頭(はじめに)に「木造建築と聞いたとき、みなさんはどんな建物を思い浮かべますか」との問いかけがある。私は真っ先に、先日壮大な3本組柱列が発掘されたばかりの出雲大社の遺構を想った。新聞報道された当日は、写真と復元想像図を飽かず眺めていたものだ。
 次に私の処女作となった姉の家、気負い込んだ自宅、芦屋と仁川での昭和初期住居の大規模改修、阪神大震災直後に出掛けた危険度判定作業で見た現地の惨状と成果を上げた筈だった大規模改修物件の大破。訪ね歩いた多くの古建築の姿と共に、心に刻まれた木造建築の記憶は多い。
 これら私の心に残った出来事の殆どがこの著作に解説されている。改めて目から鱗の思いで深い理解ができた説明も多かった。小冊子でありながら、木造建築の正しい知識と残された課題が余すところなく総括されており、読後には8日間にわたる公開講座に臨席したような充足感を覚えた。
 書店でこの本を岩波新書のコーナーから手に取る人はどんな人達だろう。一般読書人の知的好奇心を満たすというには、部分的に専門的過ぎるかもしれないが、建築関係者には現代の木構造のわかり易い解説書となっている。一般の人には木造建築への興味と今後の課題を伝え、とかく技術に偏りがちな専門職の人には木造建築に関する幅広い教養を伝授する好著であり、建築に「木のぬくもり」を渇望する人々には嬉しい応援歌となっているに違いない。
 欲を言えば、「世界の木造建築」の紹介の部分が少ないのが少し淋しい。北欧の尖塔、フランドル地方の豪農の大屋根、スイスの山小屋など、世界各地の「木の文化」を特徴づけ、「組積造」を建築ならしめている木造部分のさまざまな知恵と工夫の話も聞きたかった。本書は、新書版ながら索引があり、読後の理解度をチェックする格好のキーワード集となっている。
 建築関係の人は,先ずこの索引で自分の木造建築及び木構造に関する認識の程度を確認して見るのも面白いだろう。(伊藤誠三)