「印象に残る本」・・・・中澤明夫


■ テムズとともに−英国の二年間(学習院教養新書7)/著者:徳仁親王
■ 出版元/学習院総務部広報課
■ 新書判 216頁= 600 円(税込)

 現役時代東京出張が多く,往復の新幹線で軽く読めるものとして林望さん著の「ホルムヘッドの謎」,「イギリスは愉快だ」などを好んで読んでいた頃,書店で平積みされていた本書に出会いました。十数年前のことです。
 「徳仁親王著」に驚き惹かれて買い求めたのですが,素晴らしく良い本なのです。
 皇太子が二年間のイギリス留学での生活や人々とのふれあい,思い出を綴られた本です。
 この原稿を書くに当たって再度ざっと読み流してみようと読み始めましたが,ついつい一語一語にこだわって読んでしまう。皇太子は結構な文筆家なのかも知れません。
 ロンドン到着に始まり,まず大使公邸,次いで滞在された一般家庭での日常生活の習得と英語研修,そしてマートン・コレッジ(オックスフォード大学)への入学と研究生活,オックスフォードでの暮らしとその文化などが興味深く書かれています。
 テムズ川を卒業論文のテーマに選び,『十八世紀以降における交通史的な変遷をテムズ川の河川改修,航行に携わった人々,テムズを行き来した二大物資である石炭とモルトなどの農産物を中心に分析』して「The Thames as Highway」という論文にまとめられたいきさつを,『幼い頃から交通の媒介となる「道」についてたいへん興味があった』と説明されています。また,赤坂御用地内で見つけられた街道標識のことなども大変印象的に述べられています。
 皇太子がひとりの留学生として,大使館や警護の担当が同行する中で,できるだけ普通の生活をしようとされた跡が色々と見受けられます。その中で,我々一般人では到底経験することのないエリザベス女王をはじめとした皇族貴族との交流の様子を思い浮かべることができます。
 天皇皇后両陛下を,「両親」,「父」,「母」と書いておられる。当たり前のことなのですが,ふと不思議に感じるのです。
 この本は元々非売品でしたが,好評だったために僅かな部数が平成5年に刊行され現在は絶版です。復刊を望んでいるところです。なお,2006年に元駐日英国大使ヒュー・コータッツィ卿によって英訳本が出版されています。