■「団地再生 甦る欧米の集合住宅」
■編者/松村秀一
■出版社/彰国社
■A5版・208頁=1,800円+税

 日本で集合住宅の建設が本格化したのは戦後だが、現在はすっかり都市住宅の主流となり、大都市圏では全住宅の半数を占める。最近、この集合住宅ストックに関するいくつかの動きが見られる。ひとつは「マンション建替え円滑化法」の制定で、建替え組合の法人化や抵当付き権利の移管が制度化される。実質的には ディベロッパーによる等価交換方式しかなかった建替え事業手法が多様化する契機になろう。もうひとつは都市公団を行政法人化する際の決議に「払い下げ」が付記されたこと。即実施はないだろうが、大都市圏にある70数万戸の公団住宅を誰が運営管理していくかが問われていくだろう。
 従来の枠組みを変えるこうした動きが始まった時に、松村先生が集合住宅先進国である欧米の再生事情を紹介した本書は、まさに時を得たものといえる。私もヨーロッパで幾つかの団地再生を見学したが、まちづくりの視点が明確で、かつ人間性豊かなデザインで再生されており、学ぶことが多い。増築も建替えも、かっての大量建設期と同様に画一的な手法が多くみられる日本とはひと味もふた味も違っている。
 本書は著者を中心に5ヶ国6名の研究者による国際共同研究を基にしたもので、こうした違いを明らかにしてくれる。第1章で欧米の団地再生を概観した後、第2章では豊富な事例を基に様々な再生手法が分類・紹介され、第3章では再生事業のしくみ、財源、プロセスが、これも具体的な事例に沿って紹介される。第2章、第3章は本書の中心であり、欧米での多様な再生手法とそれを支える事業手法が初めてまとまって紹介されたことの意義は大きい。第4章は欧米の状況に加え、オープンビルディング理論を適用して日本の団地再生のあり方が提案されている。
 公団住宅の建替えが目立って、日本はスクラップ・アンド・ビルド型と言われるが、実際には公共住宅も区分マンションも多くは有効な改修がされていない状況である。本書の出版を契機に、住宅ストックのあり方についての活発な議論を期待したい。(鎌田一夫)