■「住宅」という考え方-20世紀的住宅の系譜-
■著者/松村秀一(正会員)
■出版社/東京大学出版社
■A5変版・260頁=3,200円+税

 面白くて読みやすく、とてもためになる本がでた。副題に-20世紀的住宅の系譜-とあり、「何とか20世紀のうちに出版することができた。」とは著者の弁であるが、今、こういう本に出逢えたのは全くラッキーなことと言わねばならない。
 この100年の間に、いかに多くの建築家や技術者、起業家や為政者達が、又、住み手が、いかにして今日の住宅や町のあり様をつくり出して来たのかを、この本は、20のシーンで見事に説明してくれる。180点以上もの写真や図表も、スライドを見ながら聞いているような効果がある。
 1910年には、後にバウハウスの校長になったグロピウスが、26才にして、大企業の依頼により、「美的統一原理にもとずく住宅企業の設立企画書」なる力作をものしている。1914年には、ル・コルヴィジェが、「建築は採光された床」という鉄筋コンクリートによる構法を発表し、当時、如何に革新的なものであったか、しかし今日では、いわゆる在来構法として発展しているという話も興味深い。さらに著者は、フランスの巨人、ジャン・プルーヴェの工業技術による住宅に着目し、他とは異なる19世紀的な物づくりのクラフトマンシップは、21世紀への夢であるとも言及している。
町づくりの住宅として、1947年売り出しの、ニューヨーク郊外のレヴィットタウンが、アメリカンドリームの例として詳しい。そうだったのかと言う思いである。
 日本においては、戦後復興から、不燃化、工業化、標準化、マスハウジング等について、国の施策や建築家の様々な試み、起業家精神とその行動力等が、住宅技術史を織りなすように丹念に描かれている。
 又、戸建て住宅の大半を担っている在来木造住宅の巨大な世界には、日本の住宅を、町の風景を、もっと面白い物にできる様々な個性の輝く可能性があるとも・・・。20世紀的な「住宅」という考え方、見方を充分にに与えてくれる一冊。(鮫島直昭)