■「宇宙に暮らす−宇宙旅行から長期滞在へ」
■ 監修/松本信二 編/清水建設(株)宇宙開発室
■ 出版社/裳華房
■ A5判 162頁 = 1,600円+税

 朝の連続TVドラマ「満天」に影響された訳ではないが、昨年から「宇宙建築研究会」という組織を立ち上げた。たまたま研究室に宇宙ステーションや月面基地等の宇宙建築をテーマにする外国人研究者が二人いたことが切っ掛けだが、彼らの呼び掛けに応じて日本国内で宇宙建築の専門家と言われる方々が数名駆けつけて下さった。私自身は、これまで地球のそれも陸の上でしか建築を考えたことがなかったので、かなり半信半疑の研究会立上げだったが、回を重ねる毎に「これは面白いぞ」と確信するようになった。専門家の方々の純真、熱意、博識に打たれたこともあるが、何より地球上では考える必要のない数々の厳しい条件とその打開策を考えること自体の面白さがある。それに単に面白いだけではなく、極環境での物質循環の仕組みや技術には地球上の建築のあり方を考える上で重要と思われるものが多く存在する。もちろん軌道上、月面、或いは火星に人間を送ることへの多くの人の夢とその歴史にも、深く強いものが感じられる。いずれにせよ非現実的だと食わず嫌いを決め込むにはもったいない世界がそこにはある。
 さて、建築の専門家だがこの興味深い宇宙開発分野の初心者だという方々向けに絶好の本が出た。それが松本信二さん達のまとめられた「宇宙に暮らす」だ。同グループの著作には他にも「宇宙建築」(彰国社)、「月へ、ふたたび」(オーム社)があるが、最新の情報に基づいている点、初学者向けに関連しそうな事柄がバランス良くまとめられている点、写真等のヴィジュアル情報が豊富である点、更に学びたい人の為の文献やサイトのガイドが充実している点に本書の特長がある。1章宇宙開発の夢、2章宇宙旅行、3章宇宙空間の環境、4章無重力閉鎖空間における生活、5章月面における生活、6章宇宙医学という目次構成に知的好奇心は刺激されるものの、その内容は一向に想像がつかないという方には本書を手にとることをお薦めする。その後の受け皿としての「宇宙建築研究会」もできていますので。(松村秀一)