■「コンバージョンによる都市再生」
■ 編著/建物のコンバージョンによる都市空間有効   活用技術研究会
■ 出版社/日刊建設通信新聞社
■ B5判 174頁 = 1,800円+税

 この本は、サーツ代表の松村先生によって纏められたものである。日本建築学会の建築計画委員会のメンバーを中心とした研究会で、海外の研究者も含めた約30名による活動成果に基づいて編集されている。
 本の帯に書かれている“建築も「スクラップ・アンド・ビルド」の時代ではない”といわれるように、わが国の都市に課せられた問題の解決を探る書である。欧米では、1980年代から模索され、現在は一定の成果が上がっているといわれる「都市再生」が政府の都市再生本部によって、従来の枠組みや既成概念を超えた政策として実施が図られていることにも合致する本である。
 本の最初は、松村先生によって「コンバージョンとは何か」から都心部でオフィスを中心とする大規模開発によって引き起こされた「2003年問題」の解説があり、「サスティナブル社会から見たコンバージョン」「所有から利用へ」といったコンバージョンに関する全体像が理解できる。欧米諸国の「コンバージョンと都市再生」の章では、イギリス、アメリカ、オーストラリア、スイスについてコンバージョンを推進させる各種の政策や、各国の取組みの違いが解説されているため、コンバージョンの課題が理解できる。次の章では、海外都市のコンバージョン事例が豊富に紹介されていて、コンバージョンが多様なアプローチで実施されていることも理解できる。次に、コンバージョンの活動を担う各国のコンバージョンビジネスモデルが紹介されているが、先進諸国においては、一過性の現象ではなくビジネスとして社会に定着したことが分かる。
 最終章は、日本におけるコンバージョンの可能性として、研究会の成果がテーマ毎に分かりやすく説明されていて、都市再生の課題と、コンバージョンの各種の障害をブレークスルーする手段と対応策を知ることが出来る。
 この本によって、コンバージョンがわが国の都市再生に重要な指標を示していることが明白になったが、あとがきで松村先生が述べられている今後の研究成果を期待したい。(大武通伯)