自著によせて・・・・神田 順

■ 限界状態設計法の挑戦/ 監修:神田 順     執筆:高田毅士 他  
 限界状態設計法は、限界状態として定義される使用性や安全性にたいして、そのグレードを示す信頼性指標を介して荷重係数や耐力係数を算定して設計値を評価し、構造設計を行う方法である。日本建築学会でも、鋼構造に対して試案が1986年にまとめられ、2002年にはすべての構造に対して「指針」として取りまとめ刊行されている。技術的には十分実用化されていると言ってよい。しかし、実務にあっては構造計算を法令に従って進めることが必要なため、より合理的な性能設定が可能でもわざわざ別の手法を使うということは難しい。そんな中で、こんな形の活用はいかがか、ということから8人の仲間で「限界状態設計法の挑戦」をとりまとめ、建築技術から出版した。
 本書は、学会で「指針」作成に向けて1999年に実施した限界状態設計法を利用した技術コンペの成果を、より見やすく技術者が供用できるものにすることを目指して、6作品それぞれのねらいを明確にして読み物にまとめたものである。1993年に刊行された「限界状態設計法のすすめ」が絶版になっていることもあり、その新装版としての役割も意図して、限界状態設計法入門用にもページを割いている。
 6作品にあっては、建築主との性能に関する対話、変形を指標とする耐震性能の定量化、層崩壊を防ぐための全体システムの安全性、スケルトン・インフィルそれぞれ供用期間の異なる構造の目標安全性、バラツキの大きい木造への応用、コスト評価と安全性と言ったテーマに対して具体的に取り組み設計結果を示している。
 構造設計の中で法令計算は目的でなく手続きに過ぎない。建築物が果すべきさまざまな性能のバランスにとって重要なのは、何よりも安全性や使用性のグレード設定とその実現であり、そこにこそ設計者の役割がある。若き建築構造技術者に向けてという副題をつけたのも、構造設計の意義を見直し、建築主に対し、社会に対し十分な役割を果すべく挑戦する「若い心」を持っている方々に発信したいという気持ちからである。
■出版社/ 建築技術
■ A5版191頁=2,415円(税込)