■ 「耐震建築の考え方」
■著者/神田 順(正会員)
■出版社/岩波書店
■B6版・122頁= 1,000円+税

社会構造の変革の中、建築も仕様型から性能型に大きく変わり、新しい価値判断が必要となってきた。特に、耐震安全性に関して、平成7年兵庫県南部地震では建築技術者と一般市民との安全の受け止め方に大きな隔たりがあった。専門技術者同士の理解だけでは社会は容認しない仕組みになり、説明責任が求められることになった。建築依頼者、建築主、建築家とも共通の物差しを持つことが必要となった。本書はこのような専門家と非専門家に共通の指標を示し、『耐震建築』を中心にわかり易いが、通り一遍の表面的なものにならず、ある面で相当に奥深い根本的な課題も語り掛けている。建築の安全は本来的に多面的な互いにつながった総合された考えのもとに議論されるべきものとして熱く説いている。建築は安全性、機能性、造形性それに経済性の4要素のバランスにある。建築の場合、ある意味で安全が見えにくい。それが今日の耐震建築を考える上での問題点であるということで、4要素のうち安全の側面から建築論を語っている。安全について幅を持って考えたらということで、耐震問題を主軸に、その安全目標の尺度として共通認識に確率の概念をとり入れ、そこに安全性を信頼性と捉え、確率に裏付けられた信頼性指標の形で評価する手法を示している。
構成は、5つの章から成る。1章は、建築の持つべき本質、先の4要素のバランスの大切さを、2章は、地震被害の歴史、壊れるメカニズム、バラツキ、壊れる要因等、3章は、耐震設計の歴史的経緯、安全設計の試み等、4章は、安全の考え方として総費用最小化原則に基づく、コストとベネフィットのバランスを言い、構造設計のほか省資源、環境保全の問題にも良きヒントを与えることを説いている。5章は、建築行為の責任のあり方、構造安全性にメニューの提案、 最先端技術の原発の設計等にふれている。地震という妖怪を相手にする時、本書が建築技術者のみならず一般の人にも読まれ、共通の言葉で議論が進みより質の高い建築に向かうことが望まれる。小冊であるが考えるヒントが本当にいっぱい詰っている。              (鈴木偉之)