■建築鋼構造のシステム化
■著者/岩田 衛(正会員)・竹内 徹・藤田正則 共著
■出版社/(株)鋼構造出版
■A5版・216頁=4,000円+税

 実に挑戦的な本である。これまで設計家やゼネコンが主導してきた建築を、建築部材を供給するメーカーが、メーカー主導の視点から再構成しようとしている。
 建築をヒエラルキー構成で捉え、メーカーがシステム化したフレキシブルな汎用組立部品を提供し、それを使うことを前提に設計・施工が行われることをめざしている。これは設計の創造性を阻害するものではなく、むしろサポートするものだという。工業化は製品の規格化をすすめるが、情報化は製造工程に柔軟性をもたらすからである。
 さらに、汎用部品では、性能が明示され、ユーザーニーズのフィードバックによる継続的改良が加えられるという。
 建築は一品生産とはいうものの工業製品など非一回性(繰り返し)の部分が増えている。メーカーによる共通部品の開発へのアプローチは当然の流れかもしれない。 この本は次の5章で構成される。1章はシステム化の歴史とコンセプトを紹介し、2章は建築のヒエラルキーに基づく性能評価とシステムの成立過程を、第3章はビル構造におけるシステム化を制振パネル・座屈拘束ブレース・粘弾性ダンパー・かん合ジョイントを事例にして説明し、第4章では空間構造における適用事例を角形鋼管トラス・システムトラス・テンション構造・シングルレイヤードームで具体的に解説している。第5章は今後の展開として情報技術や地球環境問題への対応を延べている。
 この本は、その豊富な内容から、システム化という観点から鋼構造全般をみた技術集成であるといっても良いかもしれない。技術を学ぶ上でも優れたテキストになっている。日本が世界の誇る鋼構造、そのパイオニアとして活躍してきたエンジニアたちの心意気が伝わってくる。建設市場はどんぞこまで来たようであるが、こんな今だからこそ、夢とビジョンをもつことの大切さをこの本は教えてくれる。(米田雅子)