■「ザ・生コン」
  -知っていそうで知らない生コン打設の技術-
■著者/井上 博・岩瀬文夫(正会員)
■出版社/(株)建築技術
■B5版・101頁=2,800円(税含む)

 どうすれば良いコンクリートを打てるかを、現場の実態を踏まえてわかり易く、且つ具体的に説明している。標準仕様書やJIS規格に頼り、工事業者に任せきりの設計者・監理者やゼネコン管理者になりがちな現代の我々には得難い解説書となっている。
 ひび割れや強度分布のバラツキは、ある程度は当然起こるものとあきらめていた人には、それは単に無知ゆえであることを著者は教えてくれる。1章では「良いコンクリート、悪いコンクリート」についての認識を読者に植え付けてくれる。生コン工場を決めるにあたって、単にJIS工場という識別だけでは良いコンクリートを現場に届けてもらえる保証にはならないことを、2章以降で教えてくれる。
 調合を承認する過程で、規格や法令まかせの管理者は、既に大きいミスを犯していることを承知すべきとされている。スランプ15cm以下で打つことがそれほど困難なことでなく、要は当事者のやる気が有るか無いかであること、そのための手法とちょっとした工夫や材料が具体的に説明してある。7章「ポンプ圧送の技術」、8章「コンクリートの欠陥予防法」は読み物としても興味をそそられる謎解きの事実が淡々と語られている。何故ひび割れの多いコンクリートになってしまうかの原因が、ものの見事に解明されている。机上の学問だけではなく、良いコンクリート建築をも提供したいと思う構造実務家にはまたとない良著である。
 著者の一人である岩瀬氏は、良いコンクリートの普及のためにTVに出演し、サーツのイブニングセミナーで講師を務めるほか、「ミニマム500塾」と称する実践的なセミナーを開く計画を進めている。氏のコンクリートに対する熱意は何人をも感動させる迫力がある。実務者に具体的な解決法を教えてくれる類まれなる人材である。著者に刺激された人は、直接この人の講演をきくとより一層の収穫があろう(矢野克巳)。