最近読んだ本・・・・伊藤誠三

■ 建築 もののはじめ考/編集:大阪建設業協会
 これは大阪建設業協会の会報に毎月10年間,連載された「もののはじめ」欄の集大成とのことである.「それぞれその道の権威の方々にお願いした玉稿で,得がたい貴重なもの」との序文がある.土木・建築関連の多岐に亘る全83項目の起源が専門家によって簡潔に語られている.
先日,サーツ編集委員の松下一郎さんから,「これ,面白いよ」と,紹介された.30年前の発行であるが,Web Site(日本の古本屋)で,すぐに入手する事ができた.
 煉瓦はBC5000年のエジプトに始まるし,セメントも起源はギリシャ・ローマにさかのぼる事などの材料史から,かえるまた,擬宝珠の起源,更にはさしがね,墨壷,左官鏝,ちょうな(手斧),鉋等々,日本の伝統的道具類の起源と変遷が豊富な写真,資料で解説されている.「床の間」,「納戸」なども古い図面の例示でその由来がわかる.改めて考える事もなかった建築にかかわるいろいろの「もののはじめ」を知る事ができる.
 通読する本ではないが,閑なとき,これはと思う項目を開いてみると思わず熱中してしまう.
 普通,殆どの「もののはじめ」は記録されることがない.長年の経過の後,大切さが認識されてからその歴史が尋ねられる.習慣,伝統化しているものはその起源をさかのぼる事は容易ではない.いまや忘れられてゆくものが多い中,このような資料は貴重な記録といえる.それぞれに専門書はあろうが,基礎的な知識を概括するには嬉しい本である.建設業協会が斯界の権威を網羅して収集,編集したというのもすばらしいと思う.是非,古書店で見つけられることをお勧めしたい.
■出版社/ 新建築社
■ B5版504頁=2,100円(税込)