■木の国の文化と木の住まい
■著者/小原二郎・阿部市郎(正会員)・矢田茂樹 共著
■出版社/山水社
■B6版・218頁=1,200円+税

 木に纏わる多角的な考察と豊富なエピソードに、時を忘れて読みきる魅力に満ちた著作である。木と木造住宅に関して造詣の深い3氏の共著で、3氏それぞれの専門知識と個性が生き生きと紙面の上を躍動し、解り易い文面と共に、珠玉の傑作を創りあげている。7年前の出版であるが、環境問題がゼロエッミションを最大課題として登場し、聖域なき改革が叫ばれる中、木の文化を日本人の精神文化の原点として、今こそ多くの国民に読まれるべき著作として推奨したい。教育問題、家庭のあり方など幅広く、21世紀に向けて示唆に富む書物である。
 三部構成となっており、第一章の「木はいきている」はわが国の歴史と現在の生活に生き続ける木の持つ文化性が、数々の興味深いエピソードの中で語られる。日本人の木に対する特別な想いを背景に、時には信仰として、時には神秘性を込めて、時には日常生活の身近な道具として、我が国の精神文化に溶け込んでいる実態を浮き彫りにする。中でも、伊勢神宮遷宮に纏わる技術伝承の仕組みに示される精神性の高さには感動を覚える。
 第二章「木の魅力をさぐる」では木の特性とその利用技術に関する科学について記される。平易で鋭い表現で、木が人の生活に欠かせない資材であることの謂れが次々に示される。豊富な樹種で構成される我が国の森林は、生活に必要な殆ど全てのものを提供可能であり、樹種に応じて棟持柱から楽器まで、木が最も優れた材料として君臨してきた根拠を明らかにしている。環境問題を考えるとき、材料としての木の経済を見直す価値を再認識させられる。
 第三章「木を住まいに使う」では、多くの国民に支持されている木造住宅の住み心地の良さを当然のこととし、火・音・白蟻など木造住宅の問題点に対する誤解を解き、これを補う技術について、根拠と説得力ある記述で、読者に安心感を与えている。(浅野忠利)